ページ

2/13/2018

農薬使用量の国際比較2018年版

FAOSTATによる1haあたりの農薬使用量の比較

日本がどれくらい農薬を使っているか世界と比較するためFAOSTATにて無料公開しているデータを調べてみました。データは2018年2月の時点で2015年までのデータがそろっていました。まずは日本とアメリカ、イギリス、フランス、中国の1ヘクタールあたりに何キロの農薬を使っているか統計データを見てみたいと思います。結論から言いますと、比べるまでもなく日本の農薬使用量は各国よりも多いです。このような結果になっている原因はわかりませんが、日本の農産物のほうが低農薬で安心安全でアメリカ中国の農薬使用量が多いという話はデマであることがわかります。
FAOSTATによる1haあたりの農薬使用量の比較2018年版
図1

データが揃っている2014年の時点で日本は11.85kg/haの農薬を使用しています。フランスは3.9kg/haです。オーストラリアは2.39kg/haです。アメリカは2.59kg/ha(2012年)です。国土面積が近いと思われるイギリスは3.02kg/ha(2015年)です。中国韓国に関しては統計データがありませんでした。

比較する国を、スーパーマーケットでなじみのある国に変えてみてみましょう。

FAOSTATによる1haあたりの農薬使用量の比較2018年版
図2

赤いラインは日本です。ピンク色のラインはチリです!!!他はブラジル、タイ、インド、カナダ、メキシコ、アメリカ、オーストラリアです。チリ産の農産物も結構危ないかもしれないということでしょうか。

しかしこの統計には反論もあります。

それは零細農家が多い日本は、小さい土地で農作物を密植栽培をしているために農薬の使用量が多くなってしまうという説です。しかしそうなると、中国やチリの農薬使用量が多く、日本に近い面積のイギリスの農薬使用量がアメリカ並みに少ないことに説明がつきません。この説は後に説明する農林水産省のデータで誤りであることが証明できます。

FAOSTATによる1haあたりの農薬使用量の比較2018年版
図3

そういうことで、日本に近いと思われる国を追加して比較してみました。降水量は圧倒的に差があるのですが、国土面積や人口密度が近いという点で選んでみました。ドイツ、オランダ、ニュージーランドとアメリカ、日本の比較です。日本は黄色いラインで示されています。赤色のラインはオランダです。緑色のラインはニュージーランドです。オランダのような国土が狭く栽培効率が非常に高い国でも農薬使用量は日本よりも抑えられていることがわかります。ドイツは農地1haあたりの農薬の使用量が低いです。

FAOSTATによる1haあたりの農薬使用量の比較2018年版
図4

最後に中国のデータが出てきました。赤い線は日本です。緑色の線は中国本土です。青色の線は台湾です。紫色の線は香港です。黄色い線はアメリカです。

いずれの小国と中国は日本と似たり寄ったりですが、中国本土は広いにもかかわらず、1haあたりの農薬使用量は日本と近いです。これは国土が狭く農地が密であるから農薬使用量が多く、国土が広く人口密度が低いから農薬使用量が少ないという他のサイトで述べられている説は当てはまりません。もしも無理やり当てはめるとすれば、中国が定められた何倍もの農薬を使っているという仮説が成り立つかもしれませんが、もしそうだとすれば残留農薬の値に他の国の数倍の結果が出るはずですので大ごとになるはずです。でもそうはならないのは、やはり1haあたりの農薬の使用量という統計が実際に農薬が使用された量かどうかわからない点にあると思います。

各国がどの程度きつい農薬を使用しているかどうかは残留農薬を比較してみる必要がありそうです。

報道ではインドなどは複数の薬剤がミックスされたかなり怪しい薬を紅茶栽培に使っていることもあり、単一の農薬よりも必然的に農薬の使用量自体は減るはずです。

つまるところ、単一の農薬か複合の農薬かどうかや持続期間によっても使用量が異なる結果になるといえましょう。

そして雨の影響ですが、日本は雨が降ると植物に付着した農薬が流れてしまうので再度散布しないとすぐに虫に食われたりしてしまいます。しかし雨が降るというなら同じというか、それ以上に高温多湿の台湾などの農薬の使用量の少なさについて説明がつきません。

あとやはり農薬の使用量の増減は各国の政策が直接原因であると言えます。厳しい基準を設けた国では当然農薬の使用量そのものが少なくなります。ところが日本は残留農薬の基準が他国の10倍100倍であることもざらなので、国の基準をもとに農薬の使用量と散布回数の基準がJAなどにおいてあらかじめ決まっていることもあり農家が勝手な使い方をすることはほとんどないでしょう。

データだけを分析しますと、韓国は割と農薬の使用量が日本に近い割に規制値が厳しいので実データと基準に矛盾が生じ、農薬使用量の基準を守っていないのでは、とちょっと怪しいです(参考URL:http://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/attach/pdf/zannou_kisei-72.pdf)。日本の残留農薬の規制値は物によっては他国の2倍~100倍程度となっています。

一方で基準値が最も厳しいのがEUです。EUの基準値は日本の100分の1ほどです。基準を達成しているとすれば、EUの農産物は安心して購入できることを意味しています。

アメリカの基準値は項目によっては日本よりも規制が甘いものも見受けられました。中国の基準値はおおむね日本よりも厳しく設定されていますが、農作物を作っている人は学がないと思われますので、実際の使用量はどんぶり勘定かもしれません。

EUに農産物加工品などを売ろうと思うと農薬の使用量は今の100分の1くらいを目標にすべきかもしれませんね。でもそれが日本で実現できるのは、クリーンルームでメリクロン技術を使った施設栽培だけではないかと思います。健康を目的に移住するならEU圏内かオーストラリアがいいかもしれませんね。

結論です。日本は残留農薬の基準が最高で他国の100倍程度あるので、結果としてそれだけたくさん農薬を使うことができるので、農薬の消費量も多いのではないかと私は予想します。農薬の使用量は農家の善意で決まるのではなく、国の施策をもとにJAが農家を指導しますので、勝手に農薬の使用量を減らし経済的リスクを高める冒険は農家もしないと思います。少なくとも大手小売店に売るレベルの農産物に関しては農協が指導する通りにやっているから美麗な野菜や果物が買えるのです。つまるところ、日本の農薬の使用量が多いのは上(農林水産省や農協と農薬の会社)が決めたから下(農民)も従っているというだけの話だと思います。しっかり農薬使ってないと出荷させてもらえませんから、農民は従うしかないのです。近年は農薬の使用量を半分に減らしても米などの重要作物を栽培可能であることがわかってきたので環境問題に熱心な地方自治体は減農薬の取り組みを施策としてすすめています。蛍等の希少生物保護のためには水路の脱コンクリート化や干上がることのない河川の整備なども合わせて行う必要もありそうですが、その手の環境問題への取り組みはまだ希望が見えません。

ここで気になるのが農薬などの化学的汚染物質と新生児の障害や発がん率との関係ですが、どういうわけか、そういった因果関係の研究はニュースでも聞いたことがないので報告を待ちたいと思います。